ズールとアロワナ

『寂寞返し』の時ズールと再会して彼の買ったペンションの住所を渡された。隣町なので今度訪ねてみよう。今回のペンションも衝動買いらしいが(『半島についての短い話』)ズールは 昔から衝動買いが好きだった。学生の頃、近所の魚屋の水槽にアロワナが飼われていて、ズールは一目で買う決心をした。「俺はこいつを買わなきゃならない。なぜなら俺は俺だからだ」そう言ってズールは20万のアロワナを24回ローンで買った。買ったばかりのアロワナを抱えながらズールは「こいつは淡水魚だから淡水で飼わなければならない。なぜならこいつは淡水魚だからだ」と言い家へ着くと、鍋に油を満たし火にかけると常温の油にアロワナを放り込んだ。私は敢えて黙り事のなりゆきを見守った。するとズール「俺は飯を食わなきゃならない。なぜなら腹が減っているからだ」と言い戸棚からドーナツを出して食い始めた。私は持参していた蒸しパンを食べた。少しして台所がバチバチと音が聞こえてきた。疑問を抱えた二人の学徒は台所へ歩を進めた。すると煮え
立つ油の中でアロワナがばしゃばしゃと尾を振り飛び跳ねているのだ。アロワナをじっと見入る二人の学徒。15分程眺めていた所でズールが一言「根性がある!」私は黙って頷いた。そして帰った。アロワナの行方は知らない。