2010-03-01から1ヶ月間の記事一覧

名文紀行16

「それが……鉄橋人間?」 ――朱川湊人『花まんま』より

名文紀行15

●電気釜は、ナベ目デンキシキ科のホンドコメタキモドキ。 高山でもおいしい飯が炊ける圧力電気釜はミヤマコメタキモドキ。 飯盒は、ナベ目ジカビシキ科の、ムカシコメタキモドキ。 モドキがつかないのは昔ながらのお釜だけという学問的正確さが追求されてい…

名文紀行14

「人間だからわからないね。人間だからわからないね」 ――いとうせいこう『ノーライフキング』より

名文紀行13

●「警察署長が、南町一丁目の自宅の前で、さっき殺された」 「どうやって殺されたんだ」 「パトカーをおりて、玄関まで歩いている途中、近くのビルのどこかの窓からライフルで狙撃された。いちころだ」 「誰が撃ったんだ」 「ライフルを持ったやつだ」 顔の…

名文紀行12

●生れてはじめて算術の教科書を手にした。小型の、まっくろい表紙。ああ、なかの数字の羅列がどんなに美しく眼にしみたことか。少年は、しばらくそれをいじくっていたが、やがて、巻末のペエジにすべての解答が記されているのを発見した。少年は眉をひそめて…

名文紀行11

「埋めてみたくて、埋めてみました……」 ――乙一『GOTH』より

名文紀行10

●その絵を見た刹那、私の全存在は、或る異教的な歓喜に押しゆるがされた。私の血液は奔騰し、私の器官は憤怒の色をたたえた。この巨大な・張り裂けるばかりになった私の一部は、今までになく激しく私の行使を待って、私の無知をなじり、憤ろしく息づいていた…

春分

電柱にゴールデンレトリバーが小便かけて地面をちょろちょろ流れる小水はゴールデンリトルリバーという発想は実に春めいている。

名文紀行9

「ぜひ教えてくれ。なぜこんな死にかたがいやなんだ」 「こ、ここは布団部屋だ。こんなところで死ぬのはなさけない。電球が暗すぎる。百ワットと取り替えてくれ。明るいところで死にたい」 ――筒井康隆「男たちのかいた絵」より

名文紀行8

「じゃあ、シバさんが神だったらどんな人間を作ります?」 「形は変えないよ。ただ、バカな人間を作る。ニワトリみたいに、バカなのを。神の存在なんて考えつく事がないように」 ――金原ひとみ「蛇にピアス」より

名文紀行7

駅の向こう側には、上沼町というクリスマスが大好きな新興住宅地があって、全世帯で豆電球を家の外壁に点滅させているが、電気はつけたら消せと習わなかったのだろうか。家電製品の会社にいたから気になるのか。夏場の東京電力があれだけ低姿勢で節電を呼び…

焼き鳥

部屋ん中で焚き火してたら布団に火が燃え移っちまったぜ。こりゃあ千載一遇とばかりにチキンを取出し布団直火で焼いたぜやっぱりチキンは布団火で焼くに限るぜ羽毛布団だぜああなんたる皮肉。燃えるにまかせて眺めていたら布団の中からこんがり焼けた食べ頃…

名文紀行6

●本は床に置いたとたん、自己増殖を始める。 ●時々、絶対に不可能だけどこんなことができたらと夢想することの一つに、生まれてから現在までに読んだ本を、読んだ順番に全部目の前に並べて見せてくれる図書館があったらな、というのがある。 ――恩田陸「小説…

名文紀行5

「ああ、気分が少し暗くなった」 「気分とは何だい。貴様の頭は提燈か?」 「うん、提燈だ」 「提燈とは驚いた。不景気な奴だな!サーチライトにしろ」 「そうはいかない、生まれつきだもの」 ――牧野信一「父を売る子」より

名文紀行4

「その数字は君が計算して初めて存在するのだろうか?それとも、計算する前にすでに存在しているのだろうか?」 ――小林泰三「予め決定されている明日」より

毒ザメ

毒ザメに出会ったら、もう嘆くしかない。もう嘆くしかない。サメだし、毒あるし。祈ってもいいが、嘆いた方がいい。いっそ嘆いた方がいい。嘆いて嘆いて、全力で嘆いて、死ぬ瞬間まで嘆いて、少しでも気分が晴れて死んだ方がいい。救いを求めて祈らないほう…

名文紀行3

〜某君が、大学を出るとすぐに淫書刊行会と云ふのを始めて、私もその刊行書を手に入れた。絵は這入ってゐないけれども活版本だからいくらでも読める。暑中休暇の暑い盛りに二階の自分の書斎に寝転んで、何冊も積んであるのを片っ端から読破したら、興奮と暑…

名文紀行2

空中で、お気に入りのサンダルが片方脱げたのがとても悲しい。 ――乙一「夏と花火と私の死体」より

名文紀行

「〜とにかく、黙っていてくれ。君のその鴉の声みたいなのを聞いていると、気が狂いそうになる。」 「おやおや、おそれいりまめ。」 わあ!何というゲスな駄じゃれ。全く、田島は気が狂いそう。 ――太宰治「グッド・バイ」より