2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

名文紀行50

ああ、あの夏はなんと楽しかったこと!波打ち際で酒盛りしたり、酔いどれ藻をかっくらいながら酒場をハシゴしたり、潮だまりで水浴びしたり。海底を這いまわったり。ほかの蟹グループと喧嘩したり。 雌蟹を追いかけたり! ――バリントン・J・ベイリー(訳・中…

名文紀行49

アキレスが亀に、光速とは何かを説明している。光速っていうのは光の速度だ。亀は一つ頷いて、速度っていうのは何かと問う。速度っていうのは、距離を時間で割ったものだ。亀はゆっくり頷いて、距離っていうのは何かと問う。距離っていうのは、物差しを添え…

名文紀行48

●83:箱一杯に集めた銀河帝国の脱け殻を家人に捨てられた恨みは一生忘れない。 ●後藤さんが粒子であるという証拠としては、光後藤さん効果が知られている。後藤さんに光を照射し続けると、新たな後藤さんを発することは実験により確かめられている。ある一定…

名文紀行47

●人間はすべてをまずかたちとして認識する。かたちとはなんだろう――輪郭だ。輪郭とはなんだろう――境界だ。境界とは――事物が接し、せめぎ合う界面。そこには必ずちからが介在する。いままで見すごしていた平凡な部屋の、あらゆる輪郭、明暗、色彩にちからが宿…

名文紀行46

●いいか、ピートがやってきたら、お天道さまの当たらねえとこへこの護符を突っこんでやるからな。 ●たとえナイフを使ったとしても、鏡を見ながら自分の背中を刺そうとするのは、危険なほど確実性に欠ける方法だ。 ●「そうだろうか」とピーターはいった。「そ…

名文紀行45

●疑問符が導火線に変わった。そいつの火の行き先は、どうやら、おれ。 ●心臓が五つ六つ、まとめて打った。 ●おれは昨日のコーヒーを、わかしなおして、胃の中に送り込んだ。今の気分とそっくりの味がした。熱いだけが取り柄だ。 ●皿のステーキに胃の中のもの…

名文紀行44

●「僕には、その子が失った世界のほうが惜しいな。人とつき合うことで壊れてしまった世界が、確かにあったはずなんだ」 ●「でも、ただの虚構だ!」 「人間には、ときとして真実よりも虚構のほうが必要なときがある」 ●僕は小鳥の墓――。 想像すると楽しかった…

紳士

駅までの道を歩きながら、味のなくなったガムを捨てようと口から出したがガムを包む紙がない。すると前方にひとりのゼントルマンが。 「どうも、お困りの様ですね」 「は、はいぃ…」とメガネっ娘の私。 「そのガムを、私にお渡しください」 「は、はいぃ…」…

名文紀行43

●「ゲロってどうしていつもこんなひどい味がするの?」 「ふざけてそこらじゅう吐きまくったりしないようにさ。まだやる気かい?」 「やらないよ」ティリーは顔をしかめながら言った。 「じゃあパパは着替えてくる。それにしてもいったい何食べたんだ?」 「…

名文紀行42

●「これはぼくの回避療法に反している」 「回避療法?」 「どんな犠牲を払っても、病院を避けることだ」 ●待合室の長椅子で眠りこんで、吉報がもたらされる夢を見ているうちに、願望充足ファンタジイのメッキが剥げて嘲笑的な悪意ある笑劇に変わっていき、滑…

名文紀行41

●「あんたは、誰? いったい何なの?」 「わたしは、国立国会図書館つくば館です」 ●「我々の社会には、繰り言は、墓穴に入ってから蛆に聞かせろという諺があります」 ●蛇足かもしれないが、最後に、全人学級の壁に貼られていた標語を、ここに記しておきたい…

名文紀行40

●昔カバン持ちをしている頃、僕の師匠の三遊亭楽太郎が「俺さ、ステーキとか食っても贅沢してるって充実感は湧かないんだけど、吉野家の牛丼の大盛りに玉子乗せて、その上に牛皿の大盛り乗せると『罰当たりなくらい贅沢してる』って思うんだよね。1000円くら…

名文紀行39

●「氷結車が氷なことに目づまりしやがったんだ/めぐまれた冷血野郎どもは別にして。おれたちは木材燃焼式にトラックを改造した――おかげでボイラーの下で凍るほど盛大に火を燃やさにゃならんから、薪を放りこみつづけるのを忘れちゃいけない。おれたちはな、…