寝床探冒

家の鍵をなくしてしまった。財布も家に置いたままだ。困ってしまいます。そんな状態のまま4日過ぎた。食べ物は野性動物や野性植物、食用土、野性水でしのげるとしても寝る場所はそうもいかない。そんなわけで4日の間、睡眠はわずか数時間しかとっていない。その数時間も落ちていたぐしょぐしょのなかば腐った毛布を掛け粗い砂利の上で寝た為、眠りにおちるまでも過酷だった。寒さと痛みに耐え、寒さと痛みが頂点に達した瞬間眠りに落ちる『頂点突破睡眠法』を使ったのだ。「失敗すると死ぬ、で、お馴染み、あの!」のである。失敗しなかった由縁はたまたま持参した枕にある。枕が頂点突破ダメージを緩和したのだ。枕が変わると眠れないという己の性癖により端を発し命拾いした稀有な例と言える。そして現在、私はひとり森の奥地を力なく闊歩している。30キロ前から30メートル間隔に立てられている[ベッド→]という立て札を頼りに地元の猟師すら踏み込まない森の奥地へやって来てしまったのだ。こんなところにベッドがあるはずがないと思いつつ立て札
を追ってしまう。しかし私は最後の立て札の示す先に驚くべき光景を目のあたりにした。驚愕し慄然とし眼を剥き息をのんだ。あたかもサプライズだった。我をして小声で「クリビツテンギョー…」と言わしめた。人身未到の大森林のただ中に時を隔てたが如くふんわり柔らかあなベッドがぽつねんと置かれていたのである。それは実に見事な出来で一種畏怖を感じさせるとともに畏敬をも感じさせ恥ずかしくも我再び慄然とした。震えを抑えベッドに腰を据えようとした刹那、なんとベッドがカマキリになったではありませんか!なんたるサプライズ・リプライズ!昆虫の擬態には驚嘆しちゃう。