暖炉3

男はのろのろとチェアーから腰を上げると、読み終えたばかりの本、マイクル・ムアコック著『この人を見よ』を暖炉へ投げ込んだ。毎回のこのくだりに深い意味はない。実際なんの意味もない。すると男は暖炉脇の棚から一本のゲームソフトを目に留めた。ゲームタイトルは『蟹と夢』。ソフトを手に取ると、男は「2-6のボスが倒せねんだよなあ…」とぼやいた。実際やってみるとわかるが、羽ヶ丘はすごく強い。男はゲームソフトを手に取ると、数秒迷った末、ソフトを暖炉へ放った。もはや『蟹と夢』は売ったところで二束三文にすらならないからだ。男は再びチェアーに座り直すと「そろそろコタツ出そっかなあ…」と声に出さずに、思った。暖炉の薪が、爆ぜた。