暖炉(新春拡大版)

男は、実家に、いる。なぜか実家の居間には炬燵がなく、電気カーペットしかなかった。灯油ストーブもあるにはあるが、灯は消えていた。「寒ぃ…」男はつぶやいた。電気カーペットではケツと足しか暖まらねえし灯油ストーブはつけるのが面倒っちいし点火に時間がかかるのだ。なぜ炬燵を出さないのか理由を母親に詰問すると「寝ちゃうから」との返答。馬鹿女郎!やはり暖炉が一番だ、と男はひとりごちた。そして男はひとつ決心をつけた。「お外へ行こう!」それで男はお外へ出た。意外にも家の中よりお外の方が暖かだった。お外はぽかぽかとした陽気なのだ。ぽかぽか陽気に勢いづいた男は、歩いて近所の墓地へ行き、線香を買って墓参りをした。墓参りを済ませると男はぴたりと歩みを止めた。はて、これからどうしたものか?ぶらぶら歩きながら男は考えあぐねた。「古本屋行きてえな」だが近所に古本屋など…いや、待て!ある!すっかり忘れていた!完全に忘れていたが、ある!「《チャオ》!そうだ《チャオ》へ行こう!」《チャオ》――それは古き時代の名残を今に伝え
る、古のちっちゃくて通路の狭い古本屋である。「確か《チャオ》には二階があったはずだ!あの薄暗い二階には絶版SF文庫があるやもしれん!いや、必ずあるはずだ!」男の胸はにわかに高鳴った。だが一抹の不安もあった。ツブれているんじゃないか、と。「ぇえい!ままよ!」男は足早に《チャオ》へ向かった。男は心持ち早足で歩いた。そして目的地に着き、男は愕然とした。シャッターが、閉まっている…。しかも看板からは《チャオ》の文字が消されている。がっくりとうなだれる男「やはり、ツブれたのか…」しかしシャッターに何やら一枚の貼り紙が。そこには[移転しました]の文字が!「なんと!」しかも移転先は徒歩2分の距離。「近し!」男は颯爽と来た道の反対側の歩道を歩き始めた。〜第二部へつづく〜