天狗

「おい、天狗は、いるぞ」「なんだって?見たのか?」「ああ。写真も撮った。そこでまずこの図版3を見てくれ」「なんだいこりゃあ。遠くてなんだかわからんぞ。ロールシャッハ・テストか?」「次に図版5を見てくれ」「ふうむ。なんだか人間に近い形だが、まだよくわからんな」「ではこれだ。図版9」「むう!これは人間ではないな。顔に突起があるし、人間にしてはデカ過ぎる」「次はこれだ。図版14」「うっ!なんて高い鼻だ!これはまさしく天狗!だがこれだけでは確証は持てんな」「ではこれを見よ。図版2-a」「なッ!?カラー写真じゃないか!天狗の皮膚はこんな色なのか!」「まだ驚くには早いぞ。図版6-c」「おいおい!お前はこんなに近くまで天狗に接近したってのか!」「さらにこれだ図版31〜37」「うおおおお!お前が天狗といっしょに写ってるじゃないか!しかも握手まで!ハグもしたのか!しかしなぜカラーで撮らなかったんだ?」「フィルムが少なかったんだ。まだあるぞ。図版8-d」「こっこりゃあ全裸の天狗
じゃないか!どうやってここまで親密なコミュニケーションがとれたんだ!?」「ジェスチャーと軽い暴力さ。次はこのグラフ2を見てくれ」「こいつはいったい何のグラフなんだい?」「天狗の年代別目撃例の推移さ。右肩上がりになってるだろ?」「つまり天狗は年々増加傾向にあるってわけか」「もしくは人間を気にしなくなったか、まあ理由はわからんが次はグラフ3を見てくれ」「なんだいこの円グラフは?」「種類別の天狗目撃例だ」「天狗はこんなに多種類なのか!〈プレーン〉と〈ロン毛〉が多いな。だがこのグラフの出所はどこなんだい?信憑性は?」「このグラフは《天狗観測ギルド》から提供されたものだ」「なるほど。確かな情報筋から、というわけか」「その通りだ。これでもまだ天狗の存在を否定するかね?」「悪いがいくら証拠を見せられても、俺は自分の目で見るまでは確信は持てんね」「そう言うだろうと思ったよ。じゃあ最後にこいつを見てくれ。おい、入って来てくれ」ドアの開く音。「うわあああ!かっ…!?」 ここでテープは終っている。こ
のテープが録音された数日後、《天狗観測ギルド》は原因不明の出火により全焼している。そのため残念ながら図版等も現在ではほとんど残されていない。テープが終る直前、彼は何を見、叫んだのだろうか?この謎が解かれる日は来るのだろうか?いや、きっと解いてみせる、この私の手によって…!