●十月読書(前)

蟹工船・党生活者(1929・1933)
小林多喜二/新潮文庫 281ページ
海軍の保護のもとオホーツク海で操業する蟹工船は、乗員たちに過酷な労働を強いて暴利を貪っていた。“国策”の名によってすべての人権を剥奪された未組織労働者のストライキを扱い、帝国主義の一断面を抉る『蟹工船』。近代的軍需工場の計画的な論議を、地下生活者としての体験を通して描いた『党生活者』。29歳の若さで虐殺された著者の、日本プロレタリア文学を代表する名作2編。
二十日鼠と人間(1937)
ジョン・スタインベック(訳)大門一男/新潮文庫 162ページ
老人と海(1952)
アーネスト・ヘミングウェイ(訳)福田恆存/新潮文庫 134ページ
キューバの老漁夫サンチャゴは、長い不漁にもめげず、小舟に乗り、たった一人で出漁する。残りわずかな餌に想像を絶する巨大なカジキマグロがかかった。四日にわたる死闘ののち老人は勝ったが、帰途サメに襲われ、舟にくくりつけた獲物はみるみる食いちぎられてゆく……。徹底した外面描写を用い、大魚を相手に雄々しく闘う老人の姿を通して自然の厳粛さと人間の勇気を謳う名作。
異星の客(1961)
ロバート・A・ハインライン(訳)井上一夫/創元SF文庫 781ページ
宇宙船ヴィクトリア号で帰った“火星から来た男”は、第一次火星探険船で火星で生まれ、ただひとり生き残った地球人だった。世界連邦の法律によると、火星は彼のものである。この宇宙の孤児をめぐって政治の波が押しよせた。だが“火星から来た男”には地球人とは異なる思考があり、地球人にはない力があったのだ。巨匠ハインラインがその思想と情熱のかぎりを注ぎこんだ超大作。
■ユービック:スクリーンプレイ(1985・1974)
フィリップ・K・ディック(訳)浅倉久志/ハヤカワ文庫SF 317ページ
あらゆるものが退行し朽ち果てていく。この世界はいったい!?――ディックが終生追い求めた“現実とは?”というテーマを突き詰めた60年代の傑作『ユービック』。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』と並んで代表作に数えられるこの作品を、作者自身が再解釈を加えてシナリオ化。細部から結末にいたるまで加筆・修正が行われ、生まれ変わった“もうひとつの『ユービック』”、ついに刊行! 解説:飯田譲治高橋良平
◆ラッカー奇想博覧会(1980〜1995)
ルーディ・ラッカー(訳)黒丸尚・他/ハヤカワ文庫SF 403ページ
SF界のカルト・ヒーローが紡ぎだす、驚異の世界へようこそ!あやしげな慣性巻き取り機の作動で月と地球が激突の危機にさらされる「慣性」、ゲームおたくの情熱が恐るべき事態をまねく「パックマン」など、ラッカーの多彩な魅力を満喫できる作品群を結集。そのほか、サイバーパンクの旗手スターリングとの合作「クラゲが飛んだ日」、抱腹絶倒の日本旅行エッセイ2篇も織りまぜた、ファン必携の日本版オリジナル短篇集。