名文紀行27

●仕事の喜びはポケットに入るくらいだが、その退屈さときたら二トン積みのトラックが必要なくらいだったから。
●やっぱり買いものは楽しい。資本主義のはかない喜び。
●それにしても不思議だ。善玉も悪玉も、なぜ金をもつとみんな同じ生活をしたがるんだろうか。
●なんにせよ、本当に好きなことに巡り会えたんだから。たいていの人間にはそんな瞬間はやってこない。
だからスピードが商売になる。
●目をさます夢を見続けて夢のなかで不眠症に悩むガキの話。
夢のカウンセラーはやつにいう。不眠症は病気ではありませんよ。そして夢の机のうえのサボテンを指さす。近ごろじゃサボテンだって不眠症なんですから。ガキは夢のサボテンをさわり、鋭いトゲで指を刺す。血が指の腹で玉になる。
「痛い!よかった、これは夢じゃないんだ」
そのときサボテンが口を開く。
「誰だ、おれの夢のなかで叫んでるのは」
●嘘を書くのって、楽しいよな。
――石田衣良池袋ウエストゲートパーク』より