D.M.M.K.(出会い)

夕刻。早々と床についた私は激しい衝撃音により、くわと目蓋を押し上げた。誰かが、ドアを、ノック、している。がばと身を起こしドアーへ駆け寄り、ドアー越しに詰問する。「このような時分に何用だ?」その刹那、不快な衝撃音はぴたと止み、一節間をおいた後ドアーの向こうから男の声。「ご、後生だ!ド、ドアーを、ドアーを開けてくれ!用件は…」「鍵は掛かっておらぬ」「!…ありがてえ!」男は颯爽と玄関へ上がり込む。見たところまだ年端もいかぬ若者。頬が痩け顔色も悪い。「うぬ、名を申せ」男、無言。すると男、私の横をする、と抜け、部屋を見回したかと思うと同時に一点に狙いを定め(わずかな距離を)脱兎の如く駈け、私の菓子缶(菓子類を納める缶。このばあい鉄製)に手を伸ばし中身を探った。「よせ!それは私の菓子缶(地域によっては菓子箱とも呼ばれる。バスケット型が主流)だぞ!」男、無言。なおも男は菓子缶を漁り、ついには中のクッキーちゃんやスナックちゃん、チョコちゃんを投げ出す始末。「ちゃーん!(
ここでは『やめろ』『なにをする』『無益な』といった意味)」私は雄叫びをあげ、男に詰め寄った。すると男、歓喜に打ち震え「あった!あったぞ!」と言うなり真空袋詰めのドライマンゴーちゃんを高々と掲げ、封を開けた。「ちゃーん!」再度雄叫ぶ私。男は黙々とドライマンゴーを貪るかのように食し、私の阻止を振り切りついには一袋を平らげた。私の哀しみをよそに、男は満足した様子だった。さて、これが後世に名を馳せる『ドライマンゴー・貪り食い夫』の若き日の姿である。