片っぽう2

コオロギの死因を解せぬまま私の頭は疑問と焦燥が渦巻き熱っぽくなっておりました。片っぽうだけのビニールスリッパは、勉強机の上にぽつねんと投げ出されたまま所在なくランプの灯りにちらちらと影を投げておりました。一体何がコオロギを死に至らしめたのか夜通し考えた末、私はスリッパ毒にやられたのだ!と、思い当たりました(当時はまだスリッパ毒の中和法は解明されてはおりませんでした)。きっと中和する手立てがあるはずと思い、引き出しの中になぜか大量にあったビー玉をスリッパが千切れんばかりにぐいと押し込むと、浅はかな私は何の根拠もなくそれで毒は中和されたと思い、数分待ってからビー玉を取り出し、今度は別の引き出しからその日に収穫しておいたコオロギをひと掴みえいやとスリッパに詰め込んだので御座居ます。それから数分経ち原因不明の不安に駆られた私は、改めて一握りのビー玉をスリッパに押し込みました。耳を傾けるとぶじぶじと何かが潰れるような音がします。そしてスリッパからぼたぼたと滴る液体。疑問に思ってビー玉を
取り出してみると、やたらコンパクトになった羽虫の亡骸が累々!仰天し思わず絶叫してしまう私。「ぎー!」それから月明かりを頼りに哀れな羽虫の死骸を裏庭に埋葬し、お布団の中で声を殺して泣き続けました。しかし嫁入り前の私が、引き出しに残った羽虫が静まりかえっている事に気付くのは明けて翌日の夕方になっての事でありました。了/続