うんこ騒動とその波紋

平凡かつ晴天のとある早朝。一人の主婦が愛犬チャーリイの散歩がてらジョギングをしていると、住宅街を通る車道の中央に、見慣れぬ物体を発見した。主婦は首に巻いたタオルで汗を拭い、眼鏡を左手中指でゆっくり押し上げると、再び道の中央に置かれた物体を見やった。「な、なんざましょ?」するとやや先行して走っていたチャーリイが、その物体を前にぴたりと足を休め、物体に鼻先を近付けた矢先、激しく吠えだしたのだ。あの、忠実で賢く聡明で、実におとなしいチャーリイが、である!チャーリイのあまりの吠え様に、主婦はたじろいだが、好奇心を強く刺激され、恐る恐る、吠え回るチャーリイの傍へ寄り、その物体を凝視した。刹那、主婦は目を剥き、驚愕と怒りの絶叫を高々と発した。チャーリイもその絶叫に負けじと、さらに吠え猛り、その警報に分類される声色に、近隣住民達は家々を飛び出し、状況を確認すべく、警報絶叫の元へ集まった。主婦は息も切れ切れではあったが、今やなんとか興奮を押さえ、激しく喘いではいたものの、気丈にも気を失わず、住民の一人
に支えられていた。今や普段の閑静な通りにその面影は微塵もなく、野次馬でごった返し、その一角のみ祭りの様な賑わいだった。住民の一人が主婦に尋ねた。「奥さん、気を、しっかり!奥さん、いったいあなたは、何を、見たのですか!?」すると主婦はぶるぶると震え、呼吸も荒く蒼白となった顔で一点を見つめ、じっとりと汗の滲んだジャージを纏った腕を伸ばし、指差した。「あ、あれを…あれを、見て!」野次馬一同はその指差す先に視線を投げ、息をのんだ。そこには、一塊の糞便、俗に言われるうんこが、在った。チャーリイは片隅で縮こまり、勇猛果敢な番犬ともあろうに、歯を打ち鳴らし、がたがたと竦み震えていた。あのチャーリイが、である。すると気を取り直した一人の青年が叫んだ。「警察に、連絡を!」…これが、後に『うんこ騒動』と呼ばれ、社会を恐慌・震撼させたあの事件の、発端である。〜つづく〜