暖炉(新春拡大版)第2部

男は《チャオ》の前に立っていた。ガラス張りの外観。明るい感じの店内。入り口正面に思いっきり置いてあるエロ同人誌。「こ、これがネオ・《チャオ》…!」店内へ踏み入る男。客は立ち読みしてる男子学生(年令不詳)ひとり。店員もひとり。移転前ほどではないにしろ、やはり通路は狭い。そしてやたら置いてある同人誌。店内の奥へ進むと目当ての文庫コーナーがあった。男は辺りを一瞥すると小さく呻いた。「うっ…!!これはぐじゃぐじゃ配置!」ぐじゃぐじゃ配置とは―良心的古本屋なら作家別・出版社別に並べてある本棚だが、文庫サイズである事以外、ほぼランダムに並んでいる状態である。何軒も古本屋を巡る場合、この様な本棚には気力を奪われる。「なんたる不揃いな文庫たち!」しかもざっと探した結果、海外SF文庫がぜんぜんない。男は諦め、二階へと進む。ぎぃぎぃ軋む木の階段。二階は壁を本棚が囲み、部屋の真ん中には雑然とラックに入った安売り同人誌。それにしても女同人誌(レディコミ?)が多い。そんなに需要がある
のだろうか?と思ったが、目の前に女子校がある事が何らかの因果関係を示唆している、と言えなくはないだろう。それで結局、男は何も買わずに店を出、ぐるっと遠回りして家へ帰った。