のとまの間

学年は忘れたが小学校で朝の出席をとるとき「野沢」と「松本」の間に名前を呼ばれる「■島」という生徒がいた。野島でも真島でもなく、とにかく50音ではそこに当たるらしかった。それで出席の時にその■島という名前を先生が呼ぶとクラス全員がくすっと笑うのだった。笑い声に半分消されて■島の「はい」という返事はあまり聞こえなかった。授業中は■島が問題の答えを指名されて名前を呼ばれた時もクラス全員くすくす笑って■島の声はあんまり聞こえなかった。先生も笑っていた。■島の「■」という音とあとに続く「島」という響きの絶妙なコントラストが面白くてなんだか笑ってしまうのだった。
ある日ひとりの生徒が■島本人に『■(名前の最初の文字)』は何と読むんだ?と尋ねたことがある。すると■島は「わからない。自分でも発音さえできない」と言った。たしかにクラスの生徒だれひとり「■」が発音できなかった。近い音を出せる者さえいなかった。それで毎日出席をとっている先生に「■はどう発音したらいいんですか」と聞くと先生は「大人にならないとあの音は出せない」と言った。■島は中学にあがる前に転校してしまった。今ではあれがどんな音だったかも忘れてしまった。