激突!!二人の極弱体質

そこに、前田は、いた。「待ちわびたぞ!」「すまん」前田は金曜からずっと立ちっぱなしで待っていたため、足がとても痛かったが、我慢した。私は内心にやりとした。かつて宮本武蔵が遅刻して佐々木をカンカンにさせたのと同じ理屈だ、と思ったのだ。「お前の弱点をサーチしてきたぜ」と言うが早いか前田、おもむろにピザを投げつけて来た!一瞬のひるみによって左腕にピザが直撃しずばずばずばー!どさっ。私の左腕は切断された。「やはりお前が<極弱体質>だというのは本当らしいな!」 極弱体質とは――特定の行為・環境・物体にものすごく弱い人。ナメクジと塩の関係。 私はおののいた。子供の頃、自分がまだピザの極弱体質だとは知らずピザを飲み込んでしまい、食道から胃にかけて溶けた鉛を流し込まれたかのような鮮烈な痛みを思い出したのだ。事実、胃はズタズタになってしまい、それ以来<機械の胃>に頼った生活している。 前田は次々とピザを投げてくるがコントロールが悪く当たらない。私は切断された自分の左腕を拾う
と、前田めがけて投げ放った。腕は回転しながら宙を飛び、前田の肩に命中ずばずばずばずばずばー!どさっ。前田の左腕が落ちた。「これで、おあいこだな」徐々に間合いを詰めてゆく。「ぐぅぅ…」前田は呻いた。子供の頃、自分はチョップの極弱体質だとは知らず手鼻をしたところ鼻を切り落としてしまったのだ。それ以来<機械の鼻>に頼って匂いをかいでいる。 前田は接近してくる相手にむかい、握り潰して丸めた<ピザ砲弾>を放った。どぼーーーっ直撃、貫通。前田、にやり。それは相手の腹部に巨大な穴をあけたが、それでも相手は猛烈なスピードでこちらに突進してくる。「なんだと!?」前田は慌てて<ピザ・シールド>を構えたが間に合わず、相手のチョップが右肩に当たりずばずばずばずばずばー!どさっ。相手は振り下ろした手首を縦から横にすると腰にチョップずばずばずばずばずばー!その切れ味たるや発泡スチロールにあてた半田ごての如し。胴まっぷたつ。べちゃあっ。支えをなくし落下する上半身。両腕をなくし上半身
のみとなった前田。さながら何かの石膏像。「あぐぐ…」「すぐ楽にしてやる」私が前田の頭上へ止めのチョップを見舞おうと腕を振り上げた刹那、前田の口から何かが射出された。それが高圧高密度の液体ピザだと気付く前にそれは私の眉間を貫いた。明滅する意識。私は最後の気力をふり絞り、振り上げた腕を前田の脳天めがけチョップずばずばずばずばずばー!私のチョップは前田の頭を真っ二つにし<機械の首>にあたると止まった。私はゆっくり目を閉じると、それ以後ひらく事はなかった…
こうしてふたりの男の戦いは終った。今ではふたりの決着場面――下半身を失い両腕のない前田の脳天をチョップで割る腹部に巨大な穴があり眉間に小さな穴のある男――を形取ったブロンズ像が、人波に賑わう駅前商店街の入口正面にその姿を残すだけとなっている。