視点

物音。巨大な動くもの。動きは遅い。急に素早く動いたりしないだろうか。ここは足場が悪い。急に動く気配はない。動くものの一部がゆっくり近づく。<小高い丘>に触れ、ゆっくり動く。かすかな音。轟音。<寸止まりの足場>の先端から勢いよく何かが出る。水だ。水の出先には<透明の谷>がある。そこに水は貯まっていく。また<小高い丘>に触れた一部が動く。水が止まる。巨大な動くものの一部と<透明の谷>が遠のく。巨大な動くものは視界から消える。去ったようだ。私はじっと見ていた。すべてが非常にゆっくりした動きで行われた。この世界はほとんどの動きが緩慢だ。ほぼ止まっている。空気も滞っている。ここで我々の動きについてこれる生きものはいない。<外>にはいくらか危険もあるが、ここは安全だ。この世界は我々のものだ。我々の世界だ。
3杯目のウイスキーの水割りをつくろうと台所に水汲みに行ったら、蛇口のすぐ横(シンク上部)にゴキブリがいた。ゴキブリはこっちを見ている。間違いなく見ている。酔って神経が鋭くなっているので、わかる。ゴキブリは動かない。しかし面倒臭かったのでゴキブリを無視して蛇口をひねり水道水をコップに注ぎ水割りをつくった。