名文紀行3

〜某君が、大学を出るとすぐに淫書刊行会と云ふのを始めて、私もその刊行書を手に入れた。絵は這入ってゐないけれども活版本だからいくらでも読める。暑中休暇の暑い盛りに二階の自分の書斎に寝転んで、何冊も積んであるのを片っ端から読破したら、興奮と暑さの為に頭ががんがん痛くなって、どれもこれもみんなおんなじ事ばかり書いてあるのが、げえげえ云ふ程いやになった。しかし翌くる日もまた読んで又頭を痛くした。みんな読んでしまった後で、かう云ふ本は矢っ張り変体仮名で書いた木版本に限ると思った。
――内田百聞「実説艸平記」より