名文紀行13

●「警察署長が、南町一丁目の自宅の前で、さっき殺された」
「どうやって殺されたんだ」
「パトカーをおりて、玄関まで歩いている途中、近くのビルのどこかの窓からライフルで狙撃された。いちころだ」
「誰が撃ったんだ」
「ライフルを持ったやつだ」
顔のわりには洒落たことをいうと思い、おれは彼をじろじろと眺めた。彼もおれを、じろじろと眺め返した。洒落たことをいったという自覚は彼にはなかった。
●おれは鍋を火にかけ、大量のラーメンを作り、ありったけのベーコンと葱をぶちこんだ。おれと伊丹はそれを全部むさぼり食った。
――筒井康隆『おれの血は他人の血』より