名文紀行17

●「オッサン……」
「私を侮るな」
「オッサン、すごい」
「侮るなと言っただろう!」
「ああオッサンすごいのよ」
「……まだなにもしていない」
「このままでいいの。オッサン、すごい」
「ふざけるな」
●「たぶん、俺の家系って、先祖代々、貧乏籤を引く宿命なんだよ」
「そうかもしれない」
「断言されちゃった」
「そうかもしれないよ。でも、自分でそれを言ってはいけないよ」
「なぜ?」
「喋ったことは、やがて実現する。考え続ければ、その通りになる。人のせいにするな」
――花村萬月『皆月』より