名文紀行22

●自分の吐いた息を売る珍商売を思いつき、一日で五ドルほど稼いだことがあった。
●本物の小説家と偽物の小説家を見分けるのは簡単さ。命がけで嘘をつけるかつけないか、これではっきり分かれる。
●自分の常識では理解できないこと、存在すべきでないものの方がこの世の中には多い。一つでも多くの常識をくつがえすことができれば、その人は人生のエピキュリアンといえるのではないか?そして、そういう人種は数が少なく、迫害される。しばしば、自分の生活に満足している平凡人は誰もが似たり寄ったりの悟りに到達している。曰く則天去私。曰く、智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角人の世は住みにくい。その悟りを土足で踏みにじるのが人生のエピキュリアンだ。世界は自分のために犠牲になるべきだと考える不遜な奴。そういう人は若さで裏打ちされている。体力と知性に任せてゴリ押しする。そして、ある日、プツンと切れるのだ。こちら側にその人をつなぎ留めていたひもが。
●笑うしかないという気分に囚われ、二人は笑いながらしぼんでいった。
●――いや、理論と輪姦し合ってなきゃ売れねえよ。
――芸術とは異星人の実用品さ。
●誰にだって宇宙を創る能力はあるし、権利もある。一神教を信じる者は自分の宇宙を創造する手間をたった一つの神に委ねてしまった。それは精神の堕落だ。
●商人、買う、得る。
兄ちゃん悟ると、屁ひる。
乳頭丸くす悶って好き?
関東で狩ると、助かるアリスとテレーズ。
いい子休まず、大仏煮つつ。
ふらっと不倫へ、減るダーリン。
●日本の風土病の一種でもあるこの心の病いには何の苦痛もない。むしろ、ほのぼのとした情感すら漂っている。そいつが曲者だ。ハッと気づいた時にはもう手遅れだ。もう半分呆けている。
●――ブンカってなあに?
――世界を複雑にするものだよ。
――よくわからない。
――それじゃあ、旅に出たらいいよ。
●私の専攻はそれこそ「関係の美学」だった。
●砂糖子はよく弾む会話のボールを投げてくるのに菊人はそれを鉛の玉に変えてしまう。
●「陽気に、やや軽薄に、しかし真面目に」
――島田雅彦『彼岸先生』より