名文紀行38

●「このさんまは一体どこでとれたものだ」
「はい。バルト海で」
「それはいかん。さんまはザクセンに限る」
●昼間でも光がささないような場所に台所はあって、蛍光灯がついていた。そしてその蛍光灯は寿命がつきており、ジーッと音をたて少しずつ明るくなってパッとともると、次の瞬間ふっと消える。そしてまた同じことが始まる。それを何度でもくり返していた。
私は蛍光灯のこの寿命のつき方が好きではない。電球のように、ふっと消えればそれでおしまいという方がよほどすがすがしい最期である。振ってみるとサラサラと死者の声がする。
●設問のみ 文中で作者は「瞬間的な芸術の閃光」という表現を使っているが、それはどんな意味か。三十字以内で説明しなさい。
「この問題を岡本太郎画伯がやったと考えてみよう」/
「フン。芸術というようなものは、せせこましい理屈やなんかじゃなくて、生きている人間が、その生命の、というか、人間の活力が瞬間的に、ほとばしり出る、そのバクハツの産物なんであって、フン、閃光とかなんかそんな、弱々しいものではないんだ。作った人間も、なんだかわかんないが思わず作ってしまった、というのが芸術なんで、見る人も、なんだこれは、と感じるようなものが芸術のあり方なんだ。フン」(百九十字)
――清水義範『国語入試問題必勝法』より