マッカアトニヰ

いつも歩く径をいつものやうに歩ゐてゐると、路傍に見慣れぬ段ボヲルが置かれてあつた。丁度其の日は小雨が降って居り、段ボヲルは湿ってぺなぺなになって居た。心に騒めくものありて、私は其の段ボオルの中を覗いて観た。するとそこには、実寸のおよそ八分の一ばかりの身の丈の、マッカアトニヰが、ちょこねんと、鎮座して居た。ちんまりとしたマッカアトニヰは、ぢっとこちらを見つめて居る。その眼差しに情が移ってしまゐ、私はそいつを抱き抱ゑ、宅へ持ち帰るに至った。マッカアトニヰを炬燵の中へ容れてやると、ぽかぽかとした暖まりににこにことうれしさうなマッカアトニヰ。腹も減つているだらうから何か与えてやらねばならぬと思ひ、ビヰフジャアキヰを与へてみたところ、マッカアトニヰぷいと顔を乖けてしまひ、食べる気配はない。はて、だうしたものだらうかと想ひ、想ひ至りてちぎつたレタスを与へてみたところ、マッカアトニヰ、レタスをむしあむしあと喰らふ。ははあこいつァベジッタリアンだつたのかと想ひ、レタスを丸ごと与へると、なンとレタスを丸
々一ッ個平らげてしまふ。たいした食欲だと思ひ感心してゐると、マッカアトニヰ急に炬燵より身を乗り出し卓袱台の上にぴょこねんと飛び乗ると、突としてアカッペラにて唄い出す。その歌声のなんと美しきことか。麦酒を呑みながらその美声に聞き惚れている内に、私はうつらうつらとし、終には眠つてしまつた。
翌朝、二ッ日酔いの不快な咽の渇きに起こされると、私はグラスに水を注ぎ、がぶがぶ二杯三杯と飲み干すうちに幾分とも気分が善くなり、レコヲドにNEU!のフアストアルバムを乗せ針を奔らせた。やはり朝はこれに限る。すると炬燵で眠つて居たマッカアトニヰが突として苦しげに呻きだし、私は困惑を窮めた。ゐつたひだうしたことだらう。あたふたとする私を尻目に、マツカアトニヰの呻きは絶叫に代はり、急に途絶えた。触つてみるとぴくりとも動かなひ。すわ、死んで居る!しまつた。マツカアトニヰは、ヰンスツルメンタルを聴かせると、死んでしまふのだ。