名文機構3

「そうだな、わかるはずがない。あまりにも奇妙なことだからな。おれがその通路の奥まで行きつく前に、パンがひとつ弾けるみたいに棚から床に落ちたんだ。誰も触ってない。パンがアコーディオンの蛇腹みたいに膨らんだかと思うと、ポンと下に落ちたんだ。おれはそれを拾って棚に戻した。それから調味料売り場に行ったんだが、ここからが妙なところだ。レジに行こうとして、またパンの通路を通ったとき、うしろからなんの音がきこえたと思う?」
もったいぶるような目でエドガーをみる。
なに? エドガーは手話で応じたが、答えは想像がついていた。
「ポン! それだよ。振り返ると、さっきと同じパンが床に落ちていた」
それからどうしたの?
「おれはばかじゃない。そのパンを買ったよ。いつもと同じパンはカートから棚に戻した」
いつものよりおいしかった?
「似たようなものだった」ヘンリーは肩をすくめた。「次の週は前と同じのを買った」ごくごくとビールを飲む。「おしまい。あのときが絶頂期だった。頂点だった。最盛期だった。そんな奇妙なこともあったのに、ベルヴァにはつまらないといわれた」
なかなか経験できることじゃないよね、とエドガーは書いた。

エドガー・ソーテル物語』デイヴィッド・ロブレスキー(訳)金原瑞人より