名文機構5

一枚、二枚、三枚、四枚……。私はせっせとチョコレートを冷蔵庫にしまい続けた。七枚、八枚、九枚……。苺クリーム入りチョコ、ラムレーズン入りチョコ、カカオクリーム入りチョコ。チョコレートは貯まっていく。私の愉しみは、冷蔵庫を開いて、集まったチョコレートを札束のように数えることになった。金勘定をしている高利貸しの心境である。
そして、ついに念願の大晦日がやって来た。一年近くかけて、十三枚のチョコレートを貯めていた。
私は、これからチョコレートを食べる、と家族に公表した。残念ながら、家族の誰も私の発言に関心を払わなかった。紅白歌合戦を見るのに忙しかったのだ。

坂東眞砂子『身辺怪記』より