名文機構9

ぼくたちは、パイナップルの罐詰を平べったくなるまで打ちのめした。そして次にはそれを四角にし、その次には……というふうに、幾何学において知られているあらゆる形にしたのだが、ただしそれに穴をあけることはできなかったのである。
ジョージがマストを取上げて殴りはじめると、異様で不気味で野蛮で醜悪で非現実的で、なんとも形容のできない変な形になったので、こわくなってしまい、マストを捨てた。そこでわれわれ三人はそれをとり囲んで草の上に坐り、じっとパイナップルの罐詰をみつめた。そのてっぺんには、大きな凹みができていて、人を馬鹿にした笑いを浮べているような感じであった。それがひどく癪にさわるので、ハリスは思わず駆けよって手につかみ、河の真只中へ投げこんだ。それが沈むと、ぼくたちは思うさま罵り、それからボートに帰って、一生懸命に漕ぎつづけ、メイドン・ヘッドにつくまで一休みもしなかった。

ジェローム・K・ジェローム (訳)丸谷才一『ボートの三人男』より