ズールとクルーザー

学校の帰り道ズールと帰路の道々に、リサイクルショップに立ち寄った私およびズールはそこで一隻のクルーザーを散逸した。散逸ではなく普通に目に留めた。「買う!」とズール。「高いぞ!」と俺。実際学生にはとうてい手の届かぬ値段。翌日からズールは新聞配達、新聞印刷、新聞告発等のバイトを始め、二週間後にはクルーザーを買えるだけの金銭を有していた。「今から買う!貴様は傍らにて見物しておれ!」とズール。「御意」と私。クルーザーを持ってレジに並ぶズール。傍らにて見物する我。レジ脇のガムを手に取るズール。傍らにて唇をぎゅっと噛み締め見守る我輩。そしてクルーザーとガムをレジに並べるズール。身を乗り出し凝視する拙僧。しかし店員「お代が足りませんぬ」ズール「なんと!」「ガムがいけないんだ!」と僕。ズールの妹はガムが大好きなのだ。ズールは泣く泣くクルーザーを諦め、ガムと銀製の食器セットを買い、持ち金を使い果たした。「今回は残念だったな」と私。するとズール「いかにも」食器セットは引っ越す際に処分したとの事。