ズールとクルーザー2

前回クルーザーを買い逃したズールと再びリサイクルショップに立ち寄った私およびズールはそこで再び一隻のクルーザーを散逸した。再び散逸ではなく普通に目に留めた。「改めて買う!」とズール。「改めて高いぞ!」と俺。実際改めて学生にはとうてい手の届かぬ値段。翌日からズールは新聞配達、恐喝、托鉢のバイトを始め、再び二週間後にはクルーザーを買えるだけの金銭を有していた。「今度こそ買う!貴様は再び傍らにて見物しておれ!」とズール。再び「御意」と私。改めてクルーザーを持ってレジに並ぶズール。改めて傍らにて見物する我。改めてレジ脇のガムを手に取るズール。改めて傍らにて唇をぎゅっと噛み締め見守る我輩…「なりませぬ!ガム、だめ!」瞬間ズールの動きが止まる。そして改めてクルーザーとガムをレジに並べるズール。改めて身を乗り出し凝視する拙僧。しかし店員「お代が足りませぬ」ズール「なんと!」「だから言ったのに!」と僕。ズールの妹は改めてガムが大好きなのだ。再びズールは泣く泣くクルーザーを諦め、ガムとマッサージチェア
買い、持ち金を使い果たした。「今回も残念だったな。なぜ私の忠告を無視した?」と私。するとズール「ほどこしは受けぬ!」マッサージチェアは今でも時々使っているとの事。ズールと私が店を出た後、静まりかえった店内にひとり残る店員。口元にはわずかに微笑み。その胸元には『攻沢』のネームプレート。▽攻沢家の人々2 攻彦は仕事を終え、自宅の玄関を開ける「母さん、ただいま」「攻雄(セメオ)!?攻雄なのかい!?攻彦(セメヒコ)や!攻雄が帰ってきたよ!死んだとばかり思っていた攻雄が!」「母さん、僕が攻彦です。攻雄は死んだんです。そして今日は攻雄の20歳の誕生日です。生きていれば、ですが…」「攻雄が、死んだ…」「だから攻雄にプレゼントを買ってきたんです」そう言うと攻彦は室内にクルーザーを運び入れた。続く