怪力翁(前)

怪力翁はポスト・サンタクロースを狙っており、一部地域ではすでにその座を治めている。怪力翁のいる地域にサンタは来ない。これは私が小学生低学年の頃の話だ。12月25日、怪力翁を迎えるに至って用意する物はそこそこ容量のある容器、袋、篭、びく、トレイ等を玄関前に置いておく。それだけでいい。実際には置かなくてもいい。10歳以下の子供がいる家に怪力翁は必ずやってくる。そして怪力誇示品を置いてゆく。その年、私の家の玄関前に置いたナップザックの中に入っていた誇示品は冷蔵庫の取っ手だった。最初わからなかったがその意図がわかると私は驚愕し「なんたる怪力!」と吠えた。そして取っ手と共に一枚のメモ[この取っ手を外すには、片腕しか使わなかった。]さらなる驚愕!冬休みが終わり、始業式の日にはクラス全員が怪力誇示品を持ち寄るのが暗黙のしきたりとなっていた。他の誇示品は曲がった栓抜き、折れた釘、歪んだフライパン、取っ手のない冷蔵庫のドア、いびつなスチール缶、平たくなった湯たんぽ、螺旋状に絡み合った鉄パイプ
、真っ二つの硬貨、蓋が中に入ったヤカン等のいずれ劣らぬ怪力自慢誇示品だった。さらに[歯でやった。][足は使わなかった。][やったあと少し腫れたが、全然痛くなかった。]という恐るべき怪力補足メモの数々!クラス一同は息を飲んだ。そしてメモにはK・Oのイニシャル。「何者なんだ、怪力翁…」クラスの誰かがつぶやいた。続く