蒲鉾(サンタの顔面)

クリスマスが近づいて俺が真っ先に思い出すのはかまぼこだ。かまぼこ。数年前のクリスマス前後、俺がスーパーで品出しのバイトをやっていたころの話。クリスマス商戦でにわかに活気づく店内にひっそりと置かれた便乗商品があったそれがかまぼこだ。かまぼこだ!サンタの顔面を正面からプリントした、かまぼこだ!かまぼこは円柱型で側面は黄色(クリスマスカラーなら緑にしたいところだろうが緑色のかまぼこは気色悪いとメーカー側が判断したんだと思う)で真ん中にサンタの顔面。雑なプリントでにっこり笑ったサンタの顔面!真空パックに入ってて、お値段高め。かまぼこは正月に食うのが一般的とされる保守派の意見を一蹴するかのごとく食品メーカーが荒廃しきった世論を覆そうとタブーに挑んで全力で一石投じミッシングリンクを笑顔でうめたサンタの顔面!入荷数少なめ。そんなサンタかまぼこを横目に俺はバイトを続けたが、サンタかまぼこちっとも減らない。それでもにっこり微笑んでいるサンタの顔面。こういった商品はイベントの日が過ぎると売れなく
なるので、安売ワゴンに並んだり消費期限前にして無慈悲に処分されてしまう。ここにはサンタの笑顔が演出する消費社会の闇がある。その後、売れ残ったサンタかまぼこは26日には姿を消したが、俺は毎年クリスマスになると呪いのようにサンタの顔面を思い出し、この記憶はきっと死ぬまで消えない。