塩基配列ぐじゃぐじゃ仮面

寝ようとして灯りを消し、布団に入ると唐突に「…待て」と声がかかった。驚いて起き上がり灯りをつけ「誰だ!」と叫ぶまで、わずか一秒。そこには見慣れぬ男がひとり立っていた。その男、身の丈なんと六尺五寸!だいたい二メートルぐらい。「何奴!」問う我。するときゃつめ「我輩は塩基配列ぐじゃぐじゃ仮面」とぬかしおる。その名のとおり能楽の『翁』の面を被っており、その額に『DNA』と印字してある。服装は上下ジャージ(紺)。「ぬうぅ!貴様が近ごろ巷を騒がせておる某か。面白い!それでは貴様の手並み、見せてみよ!」とパジャマ姿の我。「では早速」と言うが早いか塩基配列ぐじゃぐじゃ仮面、おもむろに我がパジャマを剥ぎ取ると「御免…」とひとこと発しジャージを袖まくりし、右手を我が胸板から体内にずぶりずぶりと突っ込んでいるではないか!その間わずか一秒。我「ぐぬ!」と洩らすと、翁の面がにやりと笑ったように見え、胸板に突っ込んだ手を、物理的胸中でわさわさと動かし始めたではないか!「きゃひっ!」くすぐったくて思わず
声が出ちゃった我。すると翁「貴公、腰をさわってみなされ」言われたとおり己の腰を撫でてみると、なんと尻尾が生えている!「なんと、尻尾が生えている!」声に出した。「…貴公の塩基配列をいじりまわして候」「てめえ!爺い!クソ爺い!」すると翁、またしても我が胸中(物理的)内部で手をわさわさと動かす。今度はくすぐったさにめげず、声を我慢したが、やっぱり声に出そう。「きゃひー」ぞんざいに声を出した。「胸を触ってみなされ」言われたとおり、触る。するとそこには女体よろしく膨れた胸があるではないか!「膨れた胸があるではないか!」声に、出す。「…如何」「あんた何すんのさ!このお爺ちゃん!クソお爺ちゃん!……喋りかたまで女になってるわ!声出していこーっ!(高音)」全部声に出した。「そろそろ観念いたしましたかね?」「こっ、こんなもんじゃ、負けないわ!(鋭く切実な高音)」と言い終わるが早いか翁、早速あたいの胸中内(今や女として)で手をわさわさ。わさわさするが早いか我、声に出
「きゃっひぃーーーっぃいーー!(オペラ調)」この間わずか一秒。と、なんとなくやり切った感が胸を満たし、満足した私は爽やかな疲労とともに布団へぶっ倒れ、そのまま眠ってしまった。
翌日。目を覚ますと部屋に人の気配はない。全身をくまなく撫で回してみる。尻尾も胸もなくなっている!もう、声には出さない。それから洗面所へ向かい、鏡をのぞくと私は驚愕し慄然とした!なんとそこに映っていたのは、見まごうことなき<ヒロシ>の姿だったのである!(まあ!)