ライオン狩り

浅川くんから電話があった。「今日の初詣は中止だ」俺「なぜだい?」氏「そう早合点するな。かわりにライオン狩りを行う」俺「ライオン?なぜだい?」氏「ふふ、欲しがるねぇ。今年は寅年だぜ?」俺「なるほど」氏「飲み込みが早いな。よって、ライオンを狩る。狩らねばならない」俺「なぜ、虎ではないのか?」氏「それは的を射た質問といえるな。つまりこうだ、虎より、ライオンのが強えー」俺「そっ、そりゃあ盲点だったわい!!」
こうして、我々はライオン狩りにデッパツした。元旦のまだ暗い朝、浅川くんはサスマタを持って待ち合わせ場所に立っていた。「こいつで生け捕るのだ」と自信満々の氏。俺「武器はそれだけかい?」すると浅川くん、バッグから無言でロープやらガムテープ、投網、トラバサミ、トリモチ等の罠を取り出す。「クラッカーもあるな」「こいつで威嚇し、ひるんだすきにサスマタでガッ、ロープでぐるぐるーっ、台車に乗せて持ち帰り、という作戦だ。台車は捕えた後、ホームセンターで買う予定」「なるほど。で、捕えたライオンを持ち帰ってどないすんねや?」「おいおい!捕る前からそんな話かい?こいつぁ狸ならぬ、とらぬ獅子の皮算用じゃて!」「違ぇねえ!きははは!いやまったくまったく!」この時点で我々はべろべろに酔っ払っていた。実際、私は帰って眠りたかったが麦焼酎を生のまま呑んで眠気を振り払った。浅川くんはどんよりした目をしきりにまばたきしながら生のウィスキーをちびちび呑んでいた。たぶん彼も帰って寝たかったんだと思う。
初詣客に混じっていよいよライオン狩りが開始された。これから野性のライオンを探すわけである。氏「野性のライオンは急に飛び掛かってくる恐れがある。周囲にはじゅうぶん気をくばっておけよ」俺「サー・イエス・さぁ!(福原愛ものまね)」「うふっ、うっふふっ…」このときサー浅川は聞き慣れぬ、なんとも気持ちの悪い笑い方をした。それは実際に気持ちが悪かったんだと思う。間もなく路地裏で嘔吐することによって彼はその証明を果たした。「サー、大丈夫でありますか?」サー(涙目)「はぁ…はぁ……イエス・マム」だがマム(俺)は大丈夫ではなかった。サーのゲロ臭ぇ息を至近距離で嗅いでしまい、結果もらいゲロしてしまった。ゲロからは濃厚な湯気が立ちのぼっていた。そのままふたり黙ってうずくまっていると、だんだん寒くなってきた。「このゲロを餌と勘違いして、ライオンがぞろぞろ群なして集まってくるかもしれない」とサー。マムは黙ってうなずいた。そうなればいいな、と思って。ライオンが来たら、クラッカーで威嚇
してやるんだ。