把手(とって)

コーヒーカップの把手が空中に浮かんでいて話しかけてきた。把手のみ。「私は把手です。あなたがいつもコーヒーやら水やらジュースやら酒やらコーンポタージュを飲んでる万能マグカップの把手です。いわばレギュラー食器。あなたはいつも私にひとさし指を入れる。毎日いれる。毎日毎日。あれはやめてほしい。ひとさし指ってのはちょっと。ひとさし指以外にして。こそばいぃから。やめて」俺「すまなかった。君の気持ちに気付かなんだ。明日から悔い改めます」翌日、朝のコーヒーを飲もうとして昨日の注意を思い出し、把手に親指を入れてマグカップを持ったらバランスを崩して落ちて割れた。割れてカップから切り離された把手は、満足気だった。