名文紀行43

●「ゲロってどうしていつもこんなひどい味がするの?」
「ふざけてそこらじゅう吐きまくったりしないようにさ。まだやる気かい?」
「やらないよ」ティリーは顔をしかめながら言った。
「じゃあパパは着替えてくる。それにしてもいったい何食べたんだ?」
「芝」
●「で、どう思う?歯磨きとケチャップ類を、木工ボンドとヘアジェルと潤滑油の隣に置いて<べたつくもの>の棚にしようか?それとも噛み煙草とうがい薬と一緒にして、<吐き出すもの>でまとめてディスプレーするか?」
●「それ、どこで手に入れたの?」/「いったいどうやって手に入れたの?」/
「あんた、私の日記を着てるじゃないの」
タイタニックを沈めた氷山の視点から書いた自作の小説の原稿を置いていった。ジェレミーは母親と原稿を朗読しあった。書き出しはこうだ。「おのれが宿命を負っていることを氷山は知っていた」。
●あるときジェレミーは、火星に関する本をカールに読んで聞かせたことがある――ただし、「火星」という言葉をつねに「女の子」に置き換えて。
●「スーザン・ビアよ」とスーザンは言い、スーザンたち全員が笑う。
●Q あなたはお兄さんを愛していますか。
A 私は私の兄を兄のように愛しています。
●昔々、妻が死んでいる男がいた。男が妻に恋したとき彼女は死んでいたし、一緒に暮らした、やはりみな死んでいる子供が三人生まれた十二年のあいだも死んでいた。これから語ろうとしている、妻が不倫をしているのではと夫が疑いはじめた時期にも、彼女はやはり死んでいた。
――ケリー・リンク(訳・柴田元幸)『マジック・フォー・ビギナーズ』より