名文紀行46

●いいか、ピートがやってきたら、お天道さまの当たらねえとこへこの護符を突っこんでやるからな。
●たとえナイフを使ったとしても、鏡を見ながら自分の背中を刺そうとするのは、危険なほど確実性に欠ける方法だ。
●「そうだろうか」とピーターはいった。「そうだろうか」
●あいつがいうのよ、あんたがあいつにあたえたのよ、痛いところを見せてごらんとあいつがいって、ずっとそういうのよ。あんたはとっても皮肉屋だわ。とっても頭がいいわ。あいつのいい方、あれであいつはすごくリアルになる、本物よりもリアルに。あれを書いたとき、あんたは正しかった。あれは怪物がいうことよ。痛いところを見せてごらん。それは怪物の台詞よ。
●ヘレンの顔が赤くなった。赤カブみたいに真っ赤だ、とキャントリングは思い、却下した。あまりにも使い古されたいいまわしだ。
●ピーター・ノーテンはずいぶん長いあいだチェスの大会に出ていなかった。しかし、相手がいきなり予想外の手を指して、ゲームの様相ががらっと変わるときの気持ちを忘れてはいなかった。最初は短い混乱、いったいあれはなんだ?という気持ち。つづいて予期しなかった手の強さを理解したときのパニック、それから頭のなかで負けの変化がつぎつぎと展開していくにつれ、どんどんふくらんでいく恐ろしいまでの憂欝。チェスのゲームにおいてそれより悪い瞬間はない。
●「バースデイ・ケーキの蝋燭が、吹き消せないほど多くなったら、年寄りなんだよ」と、そっけなくレイトン。「/おれは若い八十代と、老いた青少年を見てきた。で、あんたは、タマに毛が生える前に脳味噌にしみができていた」
――ジョージ・R・R・マーティン(訳・中村融)『洋梨形の男』より